ホテル経営でADRとOCCはどちらを先に改善すべきか

この記事の結論

  • 両方とも市場平均より低いなら、先に改善すべきはOCC(稼働率)。理由は、稼働は単価よりも短期で動きやすく、稼働が戻れば単価の交渉力も自然に上がるため。
  • 四季花木(京都市東山区、8室のスモールラグジュアリーホテル)のWabisavvy支援後1年(2026年1-4月)では、ADRは+6.2%の微増に留まり、OCCが+22.7ポイント伸びた結果、売上は+63.7%増加した。成果の主役は単価ではなく稼働だった。
  • 自施設がどちらのフェーズ(稼働優先/単価優先)にいるかを判定する方法は、競合5社との比較で判断する。手順は本文後半のチェックリストで整理。

用語定義

本記事で使う3つの主要指標を先に定義します。

  • ADR(Average Daily Rate、客室平均単価):販売された客室1室あたりの平均単価。ADR = 客室売上 ÷ 販売済み客室数 で算出。
  • OCC(Occupancy、稼働率):総客室数のうち、販売された客室の比率。OCC = 販売済み客室数 ÷(総客室数 × 日数) で算出。
  • RevPAR(Revenue Per Available Room、客室1室あたりの収益):RevPAR = 客室売上 ÷(総客室数 × 日数)= ADR × OCC で算出。
ADR × OCC = RevPAR の関係図 ADR × OCC = RevPAR(客室収益)の関係 ADR 客室1室あたりの 平均単価 × OCC 全客室のうち 販売された比率 = RevPAR 客室1室あたりの 収益 売上を伸ばす道は2つしかない 単価(ADR)を上げる  または  稼働(OCC)を上げる
図1:ADR × OCC = RevPAR の関係

なぜADRを上げる前にOCCを見るべきなのか

ホテル・旅館経営の改善を話すとき、多くの議論が「ADRをどう上げるか」から始まります。単価を上げれば売上が上がる。分かりやすい物語です。

ですが、実際に数字を動かそうとしたとき、「先にやるべきこと」は別にあります。この記事では、8室のスモールラグジュアリーホテル「四季花木」(京都市東山区、Wabisavvy運営)のWabisavvy支援後1年で何が起きたのかを、数字で振り返ります。結論を先に言うと、ADRはほとんど動きませんでした。にもかかわらず、売上は+63.7%伸びました

1. ADR、OCC、RevPAR:3つの指標の関係

RevPARはADR×OCCで分解できる、という関係が重要です。つまり、RevPAR(≒売上)を上げる手は2つしかない。単価を上げる(ADR)か、稼働を上げる(OCC)か。

ここでよくある誤解が生まれます。

誤解:ADRを上げれば売上は上がる

ADRを上げても、OCCが同じかそれ以上落ちていれば、RevPARは下がります。値上げによって客が減り、売上が落ちる、という典型的な失敗です。ADR単独を追う限り、この落とし穴からは逃れられません。

誤解:ADRとOCCは同時に改善できる

短期的には難しい場合が多いです。値上げと稼働アップを同時に狙うと、どちらも中途半端になる。現実には、「今年はどちらを優先するか」を意思決定する必要があります。

この「どちらを優先するか」の判断は、施設ごとに違います。自施設のOCCが市場平均より低いなら、稼働から。ADRが周辺競合より低いなら、単価から。両方低いなら、通常は稼働から。理由は、稼働のほうが短期で動きやすく、かつ稼働が戻れば単価の交渉力も自然に上がるからです。

2. 四季花木のWabisavvy支援後1年:ADRは微増、OCCは+22.7pt

四季花木は、Wabisavvyが運営体制の再設計に本格関与した施設です。Wabisavvy支援前(2025年)とWabisavvy支援後1年(2026年)の1-4月を同じ季節で並べると、こうなっていました。

指標 2025年 1-4月 → 2026年 1-4月 変化
ADR +6.2%
OCC 41.9% → 64.6%(+22.7pt
販売ルームナイト数 +54.2%
客室売上 +63.7%

※ADR・販売ルームナイト数・客室売上の絶対値は機密情報のため、変化率のみを公開しています。

Before/After:Wabisavvy支援前から支援後1年への変化率 Before / After:Wabisavvy支援前 → 支援後1年の変化 2025年 1-4月 → 2026年 1-4月 ADR +6.2% OCC +22.7pt 販売ルームナイト数 +54.2% 客室売上 +63.7% 売上+63.7% の主役は、ADRではなくOCCだった
図2:Wabisavvy支援前/後の変化率

数字の並びが示しているのは、Wabisavvy支援後1年の成果の主役はADRではなくOCCだったということです。単価は+6.2%しか動いていない。一方で稼働は41.9%から64.6%へ、22.7ポイント上昇。販売ルームナイト数で見ると+54.2%。

結果として客室売上は+63.7%伸びましたが、この上昇のほとんどは稼働の回復から来ています。

3. ルームタイプ別に見ると、戦略が違っていた

もう一段掘り下げて、ルームタイプ別に並べ直します。機微情報保護のため、ルームタイプは仮名(A/B/C)で表記します。

タイプ ADR変化
(2025 1-4月 → 2026 1-4月)
販売RN変化
(2025 1-4月 → 2026 1-4月)
A(上位カテゴリ) +24.0% +50.7%
B(中位カテゴリ) ▲1.2% +31.2%
C(主力カテゴリ) +3.2% +69.6%

※ADRと販売ルームナイト数の絶対値は機密情報のため、変化率のみを公開しています。

ルームタイプ別のADR変化と販売RN変化の散布図 ルームタイプ別の戦略:同じ1年で、動かし方が違った ADR変化 → 販売RN変化 → ▲5% ±0 +15% +30% 0% +20% +40% +60% +80% A タイプA:上位カテゴリ ADR +24% × RN +51% 単価と稼働の両取り B タイプB:中位カテゴリ ADR ▲1% × RN +31% 単価を譲り、稼働を優先 C タイプC:主力カテゴリ ADR +3% × RN +70% 稼働に全振り 単価と稼働のどちらに寄せるかは、タイプごとに判断を変えた
図3:ルームタイプ別のADR/販売RNの動き

同じ1年で、タイプによって動かし方が違っていました。

タイプA(上位カテゴリ):単価も稼働も両取り

ADRを+24%上げながら、販売ルームナイト数も+51%増やしました。希少性を維持したまま需要を取り込んだ、最も強い動き。

タイプB(中位カテゴリ):単価をわずかに譲って、稼働を優先

ADRは▲1.2%とほぼ横ばい(むしろ微減)。その代わり販売ルームナイト数を+31%増やしました。価格を上げに行くより、「確実に埋める」を選んだ動き。

タイプC(主力カテゴリ):単価は動かさず、稼働に全振り

ADRは+3.2%で実質変わらず。販売ルームナイト数を+70%増やしました。販売の主力であるCは、値上げのリスクを取らず、稼働回復に徹した。

4. この1年は、「値上げの年」ではなく「売り方を戻した年」だった

ルームタイプ別の動きをまとめると、こういう構図が見えてきます。

Wabisavvy支援前(2025年)は、稼働を失っていた。OCC 41.9%という数字は、8室の施設で平均して3〜4室しか埋まっていない状態です。需要がない時代ではない(京都の春需要は強い)にもかかわらず、稼働が低かった。これは「適正な売り方ができていなかった」ことを意味しています。

Wabisavvy支援後1年(2026年)は、まず稼働を取り戻すことに集中した。全タイプで販売ルームナイト数を大きく伸ばす一方で、単価は無理に動かさなかった。タイプBに至っては、単価を微減させてでも稼働を優先した。

結果、全体で売上+63.7%を達成しましたが、これは値上げの成果ではなく、「適正な売り方に戻した」成果でした。

5. 自分の施設でやってみる:まず順序を決める

多くの施設では「ADRを上げるか、OCCを上げるか」の議論が同時並行で走ります。そして、どちらも中途半端に終わります。自施設がどちらを優先すべきかを決めるところから始めてください。

稼働優先/単価優先/利益改善フェーズの判定フロー 自施設がどちらのフェーズにいるかを判定する 直近12ヶ月のOCCを出す 競合5社のOCCと比較して 10pt以上低いか? はい いいえ 稼働優先フェーズ まずOCCを取り戻す 競合のADRより 10%以上低いか? はい いいえ 単価優先フェーズ ADRを取りに行く 利益改善フェーズ GOPPARへ 所要時間の目安:合計1日〜1.5日。四半期ごとに見直す。
図4:稼働優先/単価優先/利益改善の判定フロー

以下のチェックで、自施設がどちらから手をつけるべきかを判定できます。

所要時間の目安は、データ抽出が1〜2時間、競合観測が4〜6時間、解釈と方針決定が2〜3時間。合計で1日〜1.5日の仕事になります。

ただし、この判定は一度だけの仕事ではありません。市場状況は変わり、競合も動きます。四半期ごと、少なくとも半期ごとに、自施設が「稼働フェーズ」にいるのか「単価フェーズ」にいるのかを見直す必要があります。

6. よくある落とし穴

この判断を実際にやってみると、3つの落とし穴に出会います。

落とし穴①:ADRとOCCを同時に追いかけてしまう

どちらも大事なので、経営会議では両方上げる目標を掲げがちです。しかし施策レベルでは、単価を上げる動きと稼働を取りに行く動きは方向が逆になることが多い。値上げすれば稼働は落ちやすく、稼働を取りに行けば単価を譲ることになる。優先順位を決めずに両方追うと、どちらも動かない状態に陥ります。

落とし穴②:競合を見ないで自施設だけ見る

自施設のOCC 50%は、高いのか低いのか。自施設のADRが普段の感覚で「そこそこ」に見えても、競合平均との距離を測らなければ、それが「稼働で遅れている」のか「単価で遅れている」のかは判別できません。絶対値だけを見ても判断できないのです。競合の数字と並べて初めて、方向が見えます。

落とし穴③:判断しても、実行が続かない

順序を決めるのは、一度やれば済む仕事です。難しいのは、決めた順序に従って実行し続けること。「今年は稼働優先」と決めても、実務の現場では毎日のように「この価格で出すべきか」「この予約を取るべきか」の小さな判断が発生します。その一つ一つが方針と整合しているかを確認し、ズレていたら軌道修正する。この継続のサイクルを、運営業務と並行して回せる体制を作れるかどうかが、数字が実際に動くかどうかの分かれ目になります。

よくある質問

ADRとOCCはどちらを先に改善すべきか?

両方とも市場平均より低いなら、通常はOCC(稼働)から改善する。理由は、稼働は単価よりも短期で動きやすく、稼働が戻れば単価の交渉力も自然に上がるため。ただし自施設のOCCが競合平均と同水準で、ADRのみが低い場合は、単価優先に切り替える。

ADRとRevPARはどう違うのか?

ADRは販売された客室の平均単価(1室あたりの売れた値段)、RevPARは全客室に対する収益(1室あたりの稼ぎ)。同じ売上でも、客室稼働が低いとRevPARは低くなる。売上の健全性を判断するにはRevPARの方が有効。

自施設のOCCが低い原因を特定するには?

以下3つの観点で分析する。(1)競合比較:同規模・同価格帯の5社と比べて低いか。(2)チャネル別:特定OTAだけで低いか全チャネル共通で低いか。(3)時期別:閑散期だけなのか通年なのか。原因によって打つ手が変わる。

値上げとOCC改善を同時にやれるか?

原則として方向が逆。短期では優先順位をつける必要がある。ただし、商品価値そのものが向上した(リノベーション、サービス改善など)場合は、稼働と単価の両方が上がる局面がある。

OCCを優先している間、単価はどうすべきか?

動かさないのが基本。Wabisavvy支援後1年の四季花木では、タイプAのみ+24%の値上げを行ったが、これは需要が明確に強い上位カテゴリに限定した判断。主力タイプは据え置き、または微調整に留めた。

稼働フェーズから単価フェーズへの切り替えはいつか?

自施設のOCCが競合平均と同水準に追いついたら、次は単価フェーズ。この判断は四半期ごとに見直すのが現実的。

要点まとめ

  • ADRとOCCのどちらを先に改善すべきかは、競合5社との比較で判断する。両方低いなら通常はOCC優先。
  • 四季花木のWabisavvy支援後1年の成果(売上+63.7%)の主役は、ADR(+6.2%)ではなくOCC(+22.7pt)だった。
  • ルームタイプ別では戦略を変える。上位カテゴリは単価と稼働を両取り、主力カテゴリは稼働回復に徹した。
  • 判定は一度きりではなく、四半期ごとにフェーズを見直す必要がある。
  • 施策レベルでは「単価を上げる動き」と「稼働を取りに行く動き」は方向が逆になることが多い。優先順位を決めずに両方追うと、どちらも動かない。
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